ヘロインの禁断症状コールドターキーから立ち直り、マイルスがニューヨークに戻ってきたのは1954年2月のことでした。麻薬による約4年の停滞を埋め合わせるように、精力的にレコーディングを再開しました。最初は自分の楽器を持っていなくて、"Blue Haze"はアート・ファーマーのを借りて吹き込んだそうです。わずか2か月後の4月には、ブラシワークが絶妙なケニー・クラークを迎えてマイルス大傑作の一つ"Walkin'"が誕生しました。マイルスが薬中になりかけの1949年に録音した音源が、「クールの誕生」として56年に発売される前に、すでにホットなバップを演奏し始めていたことが分かります。「クールの誕生」は本人の命名ではありませんが、タイトルがジャズ史の金字塔として注目され、有名になりました。演奏の出来とアルバムの知名度は必ずしも一致しないものです。 この年のクリスマスには、セロニアス・モンクとの喧嘩で有名になったセッションが行われ、"M.D. with Modern Jazz Giants"と"Bags Groove('56発売)"が録音されました。カムバックした途端に傑作を次々と生み出せる底力と意欲が、マイルスの真価だと思います。 54年の諸作は、どれも私にとって愛蔵品です。